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市場動向と規模 — 警備DX・セキュリティロボット市場の現状

日本の警備業は年間売上高約3.6兆円という大きな産業でありながら、労働集約型のビジネスモデルが限界を迎えつつあります。本ページでは、警備業市場の全体像と、その構造転換の受け皿として高成長を続けるセキュリティロボット市場・Physical Security Tech市場の現状を報告します。

日本の警備業市場の全体像

警察庁が毎年公表している「警備業の概況」によれば、日本の警備業の年間売上高はおおむね3.5〜3.6兆円規模で推移しており、警備業者数は約1万社、警備員数は約58万人にのぼります。ビルメンテナンスや設備管理と並ぶファシリティ関連産業の中核であり、社会インフラの安全を支える巨大産業といえます。

業務区分別に見ると、オフィスビルや商業施設に警備員を配置する施設警備(1号警備)が売上の過半を占め、交通誘導などの雑踏・交通警備(2号警備)、現金輸送等の運搬警備(3号警備)、身辺警備(4号警備)が続きます。すなわち、警備業の収益構造は「人を配置すること」への対価が中心であり、人件費比率が極めて高い労働集約型産業であることが分かります。

歴史的に見れば、日本の警備業は自動化と共に成長してきた産業でもあります。1960年代に始まった機械警備(センサーと通報装置による遠隔監視と駆けつけの組み合わせ)は、常駐警備よりも低コストで広範な建物をカバーする仕組みとして普及し、現在のセコムやALSOKの事業基盤を築きました。セキュリティロボットやAI映像解析は、この機械警備の系譜に連なる「第二の自動化の波」と位置づけることができます。センサーが「点」の監視だったのに対し、ロボットとAIカメラは「面」と「動線」をカバーする点が本質的な進化です。

この構造ゆえに、警備員の採用難と人件費上昇は、そのまま警備会社の収益悪化と警備料金の値上げに直結します。発注側である不動産会社や施設運営会社にとっても警備コストの上昇は経営課題となっており、省人化・自動化への投資が「守りのコスト削減」と「攻めのサービス高度化」の両面から進むのが現在の局面です。

表1: 日本の警備業の基礎データ(警察庁「警備業の概況」等に基づく概数)
指標 規模感 ポイント
年間売上高 約3.5〜3.6兆円 ファシリティ関連産業の中核
警備業者数 約1万社 中小事業者が大半を占める
警備員数 約58万人 高齢化が進行、採用難が常態化
主力業務 施設警備(1号警備) 売上の過半、自動化ニーズの中心

セキュリティロボット市場の規模と成長率

世界に目を向けると、セキュリティロボット市場は年率15%前後の高い成長率が続くと複数の民間調査会社が推計しています。推計値は調査会社によって幅がありますが、2020年代半ばで数十億ドル規模、2030年前後には100億ドルを超えるレンジに達するという見方が一般的です。防衛・軍事用途を含む広義の推計ではさらに大きな数字が示されることもあります。

日本国内では、警備ロボット単体の市場はまだ立ち上がり期にあり、数百億円規模と推計されていますが、AI監視カメラ、遠隔監視サービス、入退管理システムなどを含む広義の警備DX市場として捉えると、既に数千億円規模の投資が動いています。特に2025年の大阪・関西万博での大規模実装を契機に、商業施設やオフィスビルでの導入検討が一気に広がったことが業界内で報告されています。

億ドル 45 62 88 120 2024年 2026年 2028年 2030年 年平均成長率 約15〜17%のレンジ
図1: 世界のセキュリティロボット市場規模の推計イメージ(複数の民間調査会社の推計レンジをもとに当サイト作成)

成長を支えるのは、単発のロボット販売ではなく、月額課金で機体・保守・遠隔監視をまとめて提供するRaaS(Robot as a Service)型のビジネスモデルです。導入側は初期投資を抑えて警備体制を再設計でき、提供側は継続収益を積み上げられるため、市場拡大の好循環が生まれつつあります。

国内の導入状況を定量的に捉えると、警備ロボットの稼働台数はまだ数百〜千台規模と推計され、全国の警備対象施設数から見れば普及率は数%にも満たない初期段階です。しかし、これは裏を返せば残された市場余地が極めて大きいことを意味します。導入が先行する東京都心の大規模ビルで運用ノウハウが標準化されれば、地方中核都市の駅ビル・病院・大学キャンパスなどへ、同じモデルを横展開できると期待されています。実際、警備各社の中期経営計画では、ロボット・AIを含む「セキュリティDX関連」が例外なく重点投資領域に挙げられています。

Physical Security Techが高成長する背景

英語圏では、警備ロボット、AI映像解析、入退管理、緊急通報などを包括する領域をPhysical Security Tech(フィジカルセキュリティテック)と呼び、サイバーセキュリティと並ぶ成長分野として位置づけています。物理セキュリティ市場全体では世界で1,000億ドルを超える規模とされ、その中でAI・ロボティクス関連のセグメントが最も高い伸びを示しています。

高成長の第一の要因は、日本に限らず先進国共通の警備人材の不足と人件費の上昇です。米国でも警備員(Security Guard)の離職率の高さは長年の課題であり、Knightscope社のような警備ロボット専業企業が公共施設や商業施設への導入を広げています。第二の要因は、AIの画像認識精度が実用水準に達し、「人が見続ける」業務を機械に置き換えられるようになった技術的成熟です。

第三の要因として、犯罪・テロ・自然災害への対応強化という社会的要請があります。大規模イベントや重要インフラの警備は従来型の人員配置だけでは対応が難しく、センサー・カメラ・ロボット・ドローンを統合した多層的な警備体制への移行が各国で進んでいます。日本では2025年の大阪・関西万博がその象徴的な実装例となりました。

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需要セグメント別の動向

国内のセキュリティロボット・警備DXの需要は、大きく分けてオフィスビル、商業施設、空港・交通インフラ、物流施設・工場の4セグメントが牽引しています。オフィスビルでは夜間・休日の巡回業務の代替が中心で、山王パークタワーや東京オペラシティビルのような大規模ビルでの本格稼働が相次いでいます。

オフィスビル 35% 商業施設 25% 空港・交通 20% 物流・工場 15% その他 5%
図2: 国内セキュリティロボット需要のセグメント構成イメージ(公表導入事例の分布をもとに当サイト作成した概算)

商業施設では、営業時間帯の巡回と閉店後の戸締り確認・異常検知の両方が対象になります。京都ポルタや渋谷PARCOでの実証実験のように、来館者が行き交う環境での安全な自律走行が検証の主眼となっており、案内機能を兼ねた「接客もできる警備ロボット」への期待も高まっています。空港では、羽田空港での警備ロボット・ドローン連携実証のように、保安要件が厳しい大規模インフラでの多層警備が模索されています。

物流施設・工場は、敷地が広大で夜間は無人になりやすいことから、ロボットと遠隔監視の組み合わせによる常駐警備の縮小・代替効果が最も出やすいセグメントとされます。データセンターや再生可能エネルギー施設など、新しい重要インフラの増加も需要を押し上げています。

今後の拡大が見込まれるセグメントとしては、ホテル・病院・教育機関が挙げられます。ホテルでは人手不足がフロント・警備の双方に及んでおり、夜間警備と館内巡回の自動化はインバウンド需要の回復と相まって関心が高い分野です。病院は24時間人が滞在する施設として警備需要が安定的に大きく、暴力・徘徊への対応など医療特有の課題に対するAI検知の応用も検討されています。「警備員を集められない施設」から順に自動化が進む——これが需要側の基本的な力学です。

投資・資金調達と今後の注目点

資金調達の面では、国内ではSEQSENSEやugoといったロボットスタートアップが警備・ビルメンテナンス領域で調達を重ね、大手警備会社や不動産デベロッパーが出資・協業で関与する構図が定着しつつあります。海外では米Knightscopeが上場企業として警備ロボットを展開しているほか、AI映像解析分野のスタートアップへの投資も活発です。

今後の注目点は三つあります。第一に、公道・屋外への走行範囲の拡大です。2025年にセコムの「cocobo」が遠隔操作型小型車の制度を活用して公道巡回を開始したように、制度整備が市場の天井を押し上げます。第二に、複数拠点のロボットをクラウドで一元管理する運用モデルの普及です。第三に、警備会社・ロボットメーカー・ビルオーナーの間でのデータ連携とサービス統合であり、警備DXは単体機器の導入からビル運営全体の再設計へと進化しています。

政策面の後押しも見逃せません。人手不足対策としてのロボット・DX投資には、中小企業向けの投資促進税制や各種補助金が活用できる場合があり、警備業界団体もロボット・AI活用に関する検討やガイドライン整備を進めています。また、警備業の売上の約半分を占める中小警備会社にとっては、自社でロボットを開発せずとも、メーカーと提携して「運用サービス事業者」として警備DX市場に参加する道が開かれつつあり、業界全体の構造転換が緩やかに進行しています。

総じて、警備DX・セキュリティロボット市場は「人手不足という確実な需要」と「AI・ロボティクスの技術成熟」が重なった、構造的な成長局面にあるといえます。次ページでは、その根底にある警備員不足の実態を詳しく見ていきます。

※本ページの数値は警察庁「警備業の概況」および複数の民間調査会社の公表推計に基づく概数です。推計値は調査主体・定義により幅があります。

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