警備DX・セキュリティロボット業界は、警備サービスの巨大な顧客基盤を持つ大手警備会社、機体開発力に優れたロボットスタートアップ、そして先行する海外プレイヤーが、競争と協業を織り交ぜながら市場を形成しています。本ページでは、公表情報に基づいて主要企業の動向を整理します。
大手警備会社の動き — セコムとALSOK
国内警備業界の二大大手であるセコムとALSOK(綜合警備保障)は、いずれもセキュリティロボットを自社開発し、常駐警備・機械警備と組み合わせた統合サービスとして展開しています。セコムは自律走行型の「セコムロボットX2」に加え、セキュリティロボット「cocobo(ココボ)」を商業施設・オフィスビルへ展開。2025年7月には赤坂インターシティAIRで、遠隔操作型小型車の制度を活用した公道を含む外周巡回警備を日本初として開始し、屋外警備の新しい商品領域を切り開きました。
ALSOKは、案内・警備両用の人型ロボット「REBORG」シリーズを長年展開してきたほか、施設警備の現場では他社製ロボットの運用も柔軟に取り込んでいます。山王パークタワーでのSEQSENSE「SQ-2」本格稼働では、ALSOK常駐警備が運用を担う協働体制が採られており、「機体はスタートアップ、運用は警備大手」という分業モデルの好例となっています。また、2025年の大阪・関西万博では両社が中心となって会場警備を担い、顔認証・AI監視・ロボットを組み合わせた大規模警備を実運用した経験は、両社の警備DX商品力を一段引き上げたと評価されています。
両社に共通するのは、ロボット単体を売るのではなく、遠隔監視センター・駆けつけ体制・警備員教育を含むサービス全体としてロボット警備を提供している点です。全国の監視インフラと顧客基盤を持つ大手は、警備DXの「面的な展開力」で圧倒的な優位を持っています。
大手2社に続く準大手・中堅の警備会社も、自社開発にこだわらず外部の機体・AIを組み合わせる形で警備DXに参入しています。鉄道系・電力系など特定インフラに強い警備会社は、自社が守る施設の特性に合わせたロボット・ドローン運用を検証しており、「特定業種に深いドメイン知識を持つ警備会社」と「汎用技術を持つメーカー」の組み合わせが、多様な現場への適用を広げる原動力になっています。
国内スタートアップ — SEQSENSEとugo
SEQSENSE(シークセンス)は明治大学発のロボティクススタートアップで、自律移動型警備ロボット「SQ-2」を展開しています。独自開発の3次元LiDARとエレベーター連携技術を強みに、大手町・丸の内エリアのオフィスビルや空港などで採用実績を積み上げてきました。2025年には山王パークタワーでの本格稼働、東京オペラシティビルでの外構部巡回、京都ポルタや渋谷PARCOでの実証実験と、屋内から屋外・商業施設へと適用範囲を拡大しています。
ugo(ユーゴー)は、遠隔操作と自律動作を組み合わせたアバターロボット「ugo」シリーズを開発し、警備とビルメンテナンスの両分野で導入を進めています。人が遠隔から操作を引き継げる設計により、完全自律では対応が難しい例外業務をカバーできる点が特徴で、警備員が減る夜間帯の点検・巡回業務の代替として評価されています。
このほか、AIカメラ・映像解析分野や、ロボット遠隔警備サービスを掲げる新興企業の参入も相次いでおり、2026年にはAIロボットによる遠隔警備サービスの商用化計画を打ち出すスタートアップも登場しています。機体・AI・運用サービスのどこで価値を出すか、各社の戦略の違いが鮮明になりつつあります。
スタートアップの成長を支える資金調達環境も、この分野では比較的良好とされています。人手不足という確実な需要、月額型で予測しやすい収益モデル、社会インフラ性の高さは、ベンチャーキャピタルだけでなく事業会社(警備・不動産・通信・保険)からの出資を集めやすい条件であり、SEQSENSEのような大学発の技術シーズが実装まで到達した成功例は、後続のロボティクス起業を促す効果も持っています。
海外勢の動向 — Knightscopeと世界の潮流
米国ではKnightscope(ナイトスコープ)が警備ロボット専業の上場企業として知られ、円錐形の自律巡回ロボット「K5」を商業施設・病院・カジノ・公共機関などに展開しています。同社は機体販売ではなくMaaS(Machine as a Service)型のサブスクリプションで提供しており、RaaS型ビジネスモデルの先駆けとなりました。
中国では公安・空港向けの巡回ロボットが早くから実用化され、シンガポールでは政府主導の実証を経て公共空間での巡回ロボット運用が定着しつつあります。欧州では規制環境が厳しい一方、工場・物流施設など私有地内での導入が進んでいます。世界的に見ると、「人件費の高い先進国」と「都市監視ニーズの強い国」の双方で市場が立ち上がっているのが特徴です。
海外の警備サービス大手の動きも参考になります。シンガポールのCertisや欧米のSecuritas、Allied Universalといったグローバル警備会社は、警備員派遣中心の事業から「テクノロジー統合型セキュリティサービス」への転換を掲げ、ロボット・AI・データ分析を組み込んだ契約形態を拡大しています。労働集約型からテクノロジー統合型へという方向性は世界共通であり、日本の警備大手の戦略もこの潮流と軌を一にしています。
受け入れ側の動き — デベロッパー・施設運営会社
市場形成のもう一方の主役が、ロボットを受け入れる不動産デベロッパー・施設運営会社です。三菱地所や三井不動産などの大手デベロッパーは、大規模ビルの新築・リニューアル時にロボットフレンドリーな設計(エレベーター連携、充電スペース、走行環境の整備)を進めており、日鉄興和不動産の赤坂インターシティAIRのように公道巡回を含む先進事例の舞台を提供する動きも出ています。
施設側の関心は、警備コストの抑制だけでなく、ビルの商品価値・テナント満足度の向上にもあります。最新のセキュリティ体制はオフィスビルの差別化要素であり、ロボットが巡回する姿そのものが「先進的なビル」というブランドイメージに寄与するという評価もあります。清掃・配送ロボットと警備ロボットを同一基盤で管理する「ビルOS」構想も、大手デベロッパー主導で進んでいます。エレベーター連携やロボット間のすれ違い制御を建物側で標準化できれば、メーカーごとの個別開発が不要になり導入コストは大きく下がるため、ロボットフレンドリーなビル標準づくりは業界全体の普及速度を左右する取り組みとして注目されています。
| 企業 | 代表的な製品・サービス | 特徴 |
|---|---|---|
| セコム | cocobo、セコムロボットX2 | 公道巡回を含む屋外展開を先行。監視センターと統合運用 |
| ALSOK | REBORGシリーズ、常駐×ロボット協働運用 | 常駐警備の運用力を活かした人機協働モデル |
| SEQSENSE | SQ-2 | 3次元LiDARとエレベーター連携。大規模ビル・商業施設で実績 |
| ugo | ugoシリーズ | 遠隔操作×自律のハイブリッド。警備・点検の兼用 |
| Knightscope(米) | K5ほか | 警備ロボット専業の上場企業。サブスク型で展開 |
提携・協業の構図 — 競争から共創へ
この業界の特徴は、単純な機体販売競争ではなく、「機体メーカー×警備会社×デベロッパー」の三者協業で市場が立ち上がっている点です。機体メーカーは開発に集中し、警備会社が運用と緊急対応を担い、デベロッパーが導入環境を整える——という役割分担が、山王パークタワーの事例をはじめ各地で定着しつつあります。
また、通信事業者(ローカル5G・通信インフラ)、エレベーターメーカー(設備連携API)、損害保険会社(ロボット運用リスクの保険商品)など、周辺産業のプレイヤーも生態系に加わっています。警備DXは単一企業で完結しないエコシステム型の産業へと進化しており、異業種からの参入機会も広がっています。とりわけ通信事業者は、ローカル5G・映像伝送・クラウド基盤という警備DXの土台を提供する立場から、AIカメラサービスや遠隔監視事業へ直接参入する動きも見せており、警備会社にとってパートナーであると同時に潜在的な競合という複雑な関係が生まれつつあります。
今後の焦点は、複数メーカーのロボット・ドローン・カメラを統合管理するプラットフォームの主導権と、蓄積される警備データの活用です。勢力図は「機体の性能競争」から「運用プラットフォームとデータの競争」へと移りつつあると業界では見られています。中長期的には、約1万社が存在する警備業界の再編も現実的なシナリオです。ロボット・遠隔監視への投資体力を持つ大手・準大手への集約、あるいは中小警備会社が地域の運用パートナーとして系列化される形での緩やかな業界再編が進むとの見方があり、警備DXは競争環境そのものを塗り替える変数となっています。
※本ページの企業・製品情報は各社公表資料・報道(2026年上期時点)に基づきます。最新の製品仕様・導入状況は各社の公式発表をご確認ください。